千葉県私学に新しい風を吹き込む市川学園の教育
最近の首都圏中学入試で、千葉エリア入試のスタートを告げるひとつの風物詩となっているのが、市川中学校が2004年から行っている「幕張メッセ入試」です。メッセの広大なワンフロアに3,600名を超える受験生が机を並べ、テスト開始の合図と同時に、一斉に入試に挑む光景は壮観のひとことです。
市川中学校といえば、この幕張メッセの入試を始める前年の2003年に共学化。同時に、それまで同校の野球グラウンドだった校地に新校舎を完成させ、真新しい環境で女子も含めた入学者を迎え、新たな歴史をスタートさせました。
その後、年ごとに女子受験生の人気は高まり、当然のことながら入試レベルもアップ。女子の難化に引っ張られるような形で男子受験生の入試レベルも上昇してきました。いまやその勢いからすると、すでに千葉県下でトップレベルに定着した渋谷学園幕張を人気と入試レベルで追い上げる“第一候補”が、この市川だといってよいでしょう。
この市川中高が2003年4月から移転した現在の新校舎は、「21世紀を迎え、『In the Forest (森の中の学舎)』をコンセプトに、太陽エネルギーの利用を積極的に推し進め、今後100年間利用できる校舎を目指して設計されたもの。
市川学園の基本理念である『個性づくりを目指す』、『第三教育を育む』、『社会性を生む』をキーワードとして地域社会に根ざした知的活動の拠点を創りだし、人間性を育てるフレキシブルな建築空間からの、多彩な情報発信拠点となる新校舎」と同校ホームページに紹介されています。
なかでも、市川中高の教育方針の一つをその名に冠した『第三教育センター』の素晴らしさは、まさに圧巻。もし市川を志望する受験生でなくても、機会があるなら、ぜひ一度はご覧いただきたい施設です。また、全館に無線LANを張り巡らし、校外とは光ファイバーで結ばれた通信設備も、21世紀に対応したものであると同時に、自学自習という市川学園の伝統をより確固たるものにしていくためのものです。
この新校舎の設計基本コンセプトは、やはり同校のホームページに次のように記されています(詳細はここでは省略)。
1.個性化を象徴したプランと空間
2.未来のニーズに呼応し機能するフレキシブルなシステム建築
3.地域の拠点となる開かれた学校に相応しい施設計画
4.自然環境と共生しながら持続性のある建築
5.明快なゾーニングと動線計画
①本館(管理・第三教育センター)、②南館(教室棟)、③北館(教室棟)、④古賀記念アリーナ
施設・環境だけではありません。この新校舎での再スタートと並行する形で、同学園は教育の中身でも意欲的な改革を推し進め、その面でも新たな歴史を作り出そうとしています。市川学園の教育理念の根幹部分は変わらずとも、生徒の未来に向け、新しい時代に即した教育展開を具体化しようと、あえて変化・発展を期す過程にあるといっていいでしょう。
この市川中高の新校舎『In the Forest (森の中の学舎)』には、そういう新しい教育のために、さまざまな仕掛けが施されているに違いありません。それは見学にお出かけになったときに、ぜひ一つひとつをご自身の目で見て、それらの工夫を確かめてほしいと思います。
実は筆者が市川中高をお訪ねするたびに、いつも感心するのが、本館南側のラウンジと学園ショップのあるスペースです。ラウンジは在校生の憩いのスペースになっていると同時に、自習用のエンカウンタースペースでもあり、傍らにある学園ショップは、小振りなコンビニ2店舗分くらいの広いショップになっていて、ここで軽食やさまざまな必要品を買い求めることができます。(日能研Webサイトの「進学教育レポート」にも、以前に紹介記事が掲載されています)
在校生は、放課後のひととき、ここで友だちと語らい、ちょっとお腹を満たし、あるいは先生に質問をしたり、通学のバスの時間を待つ間のひとときを過ごす、絶好の場となっています。筆者が訪れた際には、いつもこのスペースが多くの生徒で賑わい、そこかしこに生徒の質問対応に追われている先生の姿が見えました。しかも、次に訪れたときには、その光景がいっそう活気を増しているのです。
先にお訪ねした折には、ちょうど大学入試結果が徐々に出始めていた時期でしたので、ラウンジ脇の壁に、今春の大学合格状況の判明分が貼り出されていました。もう少したつと、その各大学の合格実績の横に、合格者の所属クラブが記入されていくのだそうです。すると後輩の高2以下の生徒が、それを見て大いに盛り上がるとか…。そんなふうに、このラウンジの周辺スペースも活用されています。
自由な「学びの場」と、居心地の良いコミュニケーション・スペース、そして生徒の励みや刺激になるちょっとした工夫。それが市川中高をこれまで以上に活気づけているといえるでしょう。
素晴らしい環境や施設は、それじたい価値あるものではありますが、それが生徒のためにもっと使い勝手の良い、居心地の良いものになれば、なおいっそう教育効果を増し、その存在を輝かせていきます。そうなると、その環境は強い求心力を持つ磁場と化していきます。
市川中高の校舎施設の各箇所が、最近なおさらそうした求心力を強めているように感じるのは、果たして筆者だけでしょうか?
連休明けの5月12日(土)には、「Netty Land」主催の「私学独自の環境が生む“教育の質”とは?」と題した講演会が、聖学院中学校の講堂で行われます。今回は、会場校の聖学院(東京都北区・男子校)に加え、会の趣旨にご賛同いただいた市川(千葉県市川市・共学校)と立教女学院(東京都杉並区・女子校)の先生方をお招きし、それぞれの個性的な教育環境についてお話しいただきます。
市川中高の新校舎設計に込められた工夫をはじめ、聖学院、立教女学院の先生方、そして特別ゲストであるヴォーリズ建築事務所の片桐会長、それぞれの立場から、私学の校舎建築のコンセプトや、心あたたまるエピソードの数々がお話しいただけると思います。私学の特徴のひとつである独自の教育環境と、そこで実践される教育の工夫についてのお話が聞ける、希少な機会です。 (北 一成)
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